論文のバイアス
研究論文の書き方について指導を受ける過程で、査読を通った(通るために最適化させた)論文のバイアスについては何度か言及があった。中でも言われたのが
「面白い結果が出なかった論文は採用されない(ので最初から書かない)」
ということだ。
特に計量分析においては、どんなに仮説が学説的にもっともらしかろうが、「検証してみたがダメだった」論文は、なにかしらそれを超える発見がないと難しい。結果、その部分は暗黙の了解となってしまう、という話。
これを聞いた時には正直「ふ~ん」と思っただけだったのだが、年をまたいで計量分析のアサインメントがあり、強烈な形で実感することになった。
修士のアサインメントなので事前に先生からは「きちんと先行研究の議論及び統計的思考に基づいてモデルをつくり、統計ソフトを正確に使って検証し、結果を適切に読み取れているかを見るので、新規性や独自性にこだわらなくてよい」「とにかくプロセスを丁寧に残すように」と言われていた。
私が取り組んだテーマは先行研究を見渡せば当然研究対象になっていても良さそうな重要なトピックなのに、まだ「これ!」という論文が出ていない。比較的新しく、近年研究が増えているテーマなので、これから出るのだろうか、と思いつつ研究科が持っているデータを用いて検証したところ、先行研究から論理的に導き出される仮説は否定されてしまった。
「なるほど、結果が出ないから論文になってないのか」
と納得し、私個人のアサインメントとしては、検証の結果仮説は否定された、という体裁のものになった(もう少しニュアンスはあるが)。なお途中で指導役の先生に相談する機会も設けられていたので、①先行研究の状況、②仮説の構築、②モデルと利用する変数を段階的に相談し、最終的に提出。
で、今日はそのペーパーをお互いに批評をしあうセミナーがあった。他の学生のペーパーが割り振られ、大体1本20~30分をかけてペーパーが検証している内容をリキャップし、疑問点や指摘などを著者にぶつけ議論していく。著者はディフェンスをし、あらかた議論が落ち着いたところでモデレート役の先生が講評、という流れ。
私のペーパーはクラスメイトからは特にさほど大きな指摘はなかったのだが、モデレーターの先生にとても不評で、結局やり直すことになった(指摘をふまえて修正する期間があり、最終提出したものが採点の対象となる)。ちなみに公平性を期すために指導役とは別の先生。
「長々と読ませて結果が有意でないというのは読者を馬鹿にしている(You're fooling the readers)」
えー!
で、先生から指示された「結果がでる」モデルに説明変数を変更することになった。先生はこの分野のプロなので当然勘所がある。が、説明変数を変えるということは当然先行研究を論じる部分も組み立て直さないといけない。
仮に査読付学術誌に出してmajor revisionになれば大幅に書き直しになるのもわかっているし、よくあることなのかもしれないが、「プロセスを見るんじゃなかったのか~話が違うじゃないか~」とちょっと恨み節になりながらこのポストを書いている。
でもそれだけ忙しい研究者に無為な文章を読ませるな、ということなんだろうし、それだけ肌感覚としてマズいということなのだろう。指導役の先生との相談では私の問題意識の方を尊重してくれて特に何も言われなかった(改善するためのサジェッションはあった)ので、その旨説明したが、それはそれ、ということで、更に冗長な部分のカットも言い渡され、とにかく意味のある結果を最大限コンパクトに、と指導された。
ということで、修正期間が実質2ワーキングデーしかないので慌てて修正している。ふう。
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