〆切に対する価値観の違い
Twitterを見ていると日本の大学の先生方が学生からの〆切延長願いや単位懇願について書かれていて、改めて文化や価値観の違いを感じている。
私が日本で大学生・大学院生をしていたときは、実際〆切は絶対だった。〆切を落とすことはよほど事前に先生に事情を相談して合意を得ていない限り、基本的にその単位を落とすこととイコールだった。時間を過ぎて提出されたレポートは読まないと明言する先生も多かった。
仕事は尚更。顧客に約束した期限があれば、これはもう誰が見ても仕方がないと思えるような天変地異でもない限り遅延は許されない。組織勤めだったので個人の事情もあまり関係ない。いかに自分が中心的な役割を果たす仕事であろうが、チームで仕事する以上、自分が駄目なら誰かがやらねばならない。そんなわけで日々のマネジメントは〆切と仕事の質とスタッフ含めチームの心身の健康のバランスが中心だったと言ってもいいくらい。
そんな感じで過ごしてきたので、昨年進学後初めてのエッセイの〆切にあたり、書き慣れないこともあって睡眠時間を削ってギリギリまで粘り、ちょうどその日に飛行機に乗る予定があったので空港に大幅に前入りし、〆切数分前にぎりぎりアップして間に合った!とホッとしたと思ったら、ほとんど間を置かずに担当教授から全体に対して「提出した人はお疲れさま!提出できなかった人は〇〇(次の〆切)までに提出してね!」とカジュアルにメールが来たときは膝から崩れ落ちるかと思った。
えっ?!なんのための〆切なん?!
ちなみに第二ラウンドで提出して減点されるかは先生によるとのことだが、これまでそのケースはない(減点の場合事前にアナウンスはある。この先生も第二ラウンドについて説明はしていたが、あまりにも私の〆切に対する先入観が強すぎて、ここまでカジュアルなものだとは思わなかった)。
ペナルティを設けない先生の説明は割と明快で、他人のために勉強するのではなく、自分のためなので、とにかくこなすのが最優先、ということのようだ。〆切に間に合わせた生徒はスケジュール管理やペース配分という意味で自分のためになっており、間に合わず第二ラウンドの生徒はその頃には次のモジュールが忙しく正直大変なので、採点に差を付けなくても本人は既に充分苦しんでペナルティになっている、と。
ちなみに同様の理由で授業の出席義務はないし、仮に試験やエッセイを落とした場合には、再試の機会は5回もある。3回失敗したら退学処理になるドイツとは全く違う。授業の機会を活かすも活かさないも自分次第、授業目的とスライドは公開されているので、個人で勉強できるならすれば良いし、試験は知識が身についたことを確認するためのものであって、落とすためのものではない、先生はあくまでナビゲーター、ということだそう。(なお私がいる修士課程の話で、学部もそうなのかはわからない。そして理系はきっと違うだろうと推測。)
頭では理解しても、私はやはり日本感覚が骨身に染みついている。
12月中旬で終わったモジュールのエッセイの提出〆切は年明けに設定されていたのだが、実は休み中帯状疱疹にかかってしまい、医者から一週間の安静を申し渡された。幸い直ぐに医者にかかれてそこまで重くなかったので、当然予定通りエッセイは書くつもりだったのだが、それを聞いた夫が「〆切延長をしてもらうべきだ」と言う。えっ?なんで?と返したら、夫は呆れたように診断書があるんだから〆切延期は当然だという。重い病気ならさておきこれくらいで…と半信半疑ながら日数があればまあ助かるなと先生に診断書を出したところ、お見舞いの言葉とともに即座に〆切が延長され、あ、そういうものなのか、と驚いた。
実際にその後帯状疱疹の神経痛で数日間は座ることもできず、あまり集中できる状態ではなかったので正当な理由ではあったのだけど、それでも私はなんだかズルをしてしまった気がして落ち着かなかった。伸ばしてくれた〆切は病状よりも圧倒的に長かったから。
思い返せば海外と仕事をしていて、相手方が〆切をそこまで絶対的なものと捉えておらず、あっけらかんと「まだ出来てない」と言われたり、締切日にいつまで経っても連絡がないので確認を入れておいたら、数日後にしれっと出してきたりすることが割と頻繁にあったのを思い出した。
もちろんしっかりスケジュール通りの人もいるのだけど、割とお国柄で傾向があった。お陰でそういう相手方と上手くお互いストレスを溜めないように仕事をするコツもある程度掴んだのでまあそれは良いのだけど、エッセイの〆切に関する意識差を見るに、そういう人はこういう環境だったのかもしれないなあ…文化的にもそれで許容されるのかもなあ…と改めて思い出した次第。(勿論単にその個人がルーズなだけという可能性もある。)
個人の事情を汲んでくれる余地がある方がゆとりがある社会なんだろうな、と思いつつ、しわ寄せはどこかに必ずあるわけで(エッセイ程度にしても先生の採点スケジュールは崩れただろう、仕事で他人や後のスケジュールに影響するものならなおさら)、どちらがいい悪いという話ではないのだけど、程よいバランスが良いのだろうなあとしみじみ考えてしまう。
※当然こちらにも〆切が絶対のものも沢山ありますので、念の為。
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